善行のあとに
先日、私は2日間続けて国民のピンチを救いました。これは胸を張って言います。
まず、最初の土曜日。
そこは明治神宮の軽食コーナーでした。ニヤけた顔で恋人のためにソフトクリームを買っていた青年が、重なった3千円ほどの紙幣をポケットから落としました。
すかさず声をかける私。いや、正直に言うとちょっと葛藤してから声をかけました。
「お金、落としましたよ」
青年はていねいに頭を下げて、私に感謝してくれました。
さらに翌日の日曜。
スーパー銭湯の更衣室でドサッと大きな音をさせて、財布を落とし、気づかずに出て行こうとするおじいさんに声をかけました。
「財布、落としましたよ」
すると、おじいさんは「あっ」と昔のジャイアント馬場がチョップをする前みたいなしぐさをして言いました。
「ありがとね。まったく、歳とるとこれだからね、ハハハ。いや、どうもありがとう。いいお湯だった……」
もうおじいさんったら。「いいお湯だった」にはもちろん、私への感謝も含まれてるんでしょ?
正確に言い換えれば、「いいお湯といい人(私)に会えてよかった……」ってことなんでしょ?もう、ちゃんと言えばいいのに~。
私はほくそ笑んで、自分の善行が人に幸せを運んだ喜びをかみしめていました。
そのあと、あんなことになるとも知らずに……。