せがわさんひさしぶり日記

せがわさんひさしぶり日記です。

ご老人たちのスーパースロー

東京都大田区蒲田温泉。洗い場の隅のほうに行くと浴槽のあいだは唯一、幅がせまくなっていて、幅1メートルほどしかありません。

 

ふつうの成人が2人鉢合わせしたら、おたがいに体をちょっとななめにすればラクに通り抜けられますが、老人の場合、そうはいきません。

 

反対方向からやってきた彼らがこの場所で対面すると、こんな感じになります。

 

おたがいの姿が目に入る。

 

老人A・老人B 「!」

 

どうするんだ? と視線を泳がせ、2秒。目くばせしあうあいだに、また2秒。どちらかが行動開始の意思を見せ、動き出すまでに、2秒。行動そのものに、10秒。

 

なので、運悪くご老人たちのあとにならんでしまったときには、あたたかい気持ちでこれらを見守る正しいマナーを、身につけておかなければなりません。

 

でも、これで終わりではないのです。ひとりが浴槽に入るまではもっと時間がかかります。

 

右(左)足をあげるのに、3秒。浴槽にその足を入れるのに、3秒。さらに反対の足をあげるのに、体勢が不安なために4秒。その足を入れるのに、4秒。さらに全身をゆっくりとお湯に沈めるのに、6秒。

 

そのあいだ、すべて無言。ときどきは「う~」という、かすれた声も響きます。

 

そして、入浴。入っている時間はとほうもなく長いのです。

 

温泉は黒いので、骨ばったシワシワの体からなにやらダシが出ているようでもあります。

 

歳月が刻まれた皺だらけの顔は、茹でられてゆくカメを思わせます。ともあれ、蒲田温泉を愛好するご老人の長寿を祈りたいものです。